【法律情報】過払金返還請求と取引の分断

1 「取引の分断」とは

借金をした後にいったん完済をして,その後また借入をしたという場合に,いったん完済した時点までの取引(以下「第1取引」といいます。)によって発生した過払金を,その後の取引(以下「第2取引」といいます。)の借入金に充当することができるか。これが,「取引の分断」の問題です。

「第1取引」によって発生した過払金を「第2取引」の借入金に充当する計算方法を,「一連計算」といいます。このような充当を行う合意(「充当合意」といいます。)の存在が「一連計算」を行う前提とされています。

これに対して,「第1取引」によって発生した過払金と「第2取引」の借入金を全く別物とする計算方法を「個別計算」といいます。上記のような「充当合意」の不存在が「個別計算」を行う前提とされています。

なお,ここでいう「充当合意」とは,貸金業者との間で明示的に合意している必要はありません。当事者の意思解釈として,そのような合意があったと認められれば足ります。

「取引の分断」が認められるのは,上記のような「充当合意」が存在しない場合であり,この場合には,過払金の請求において「個別計算」を採用することとなります。

 

2 「取引の分断」が過払金算定に及ぼす影響

「一連計算」か「個別計算」かで,大きな違いはないように思えるかもしれません。

しかし,第1取引の期間が長い場合,「一連計算」ができるのであれば,「個別計算」によらざるを得ない場合に比べて,過払金の金額はかなり大きくなります。

また,第1取引の完済時期が過払金請求よりも10年以上前だと,「個別計算」によると,それまでの過払金返還請求権は時効によって消滅してしまい,過払金の額が大幅に減少してしまいます。(場合によっては,借金が残るケースもあります。)

そのため,「取引の分断」が認められるか否かは,過払金を請求する上で重要な争点となりますし,貸金業者も正面から争ってくるケースが多いです。

 

3 判断基準

 ア はじめに

「取引の分断」の判断基準は,「基本契約」の個数によって異なります。

 イ 「基本契約」とは

「基本契約」とは,初めて借り入れをする際に,以後の継続的な貸し借りを想定して締結する基本的な契約をいいます(契約書自体に「金銭消費貸借基本契約書」などと書かれていることが多いです)。

 ウ 「基本契約」が1つのとき

「基本契約」が1つの場合,「取引の分断」は認められず,「一連計算」をすることが可能です(最判平成19年6月7日)。したがって,第1契約で発生した過払金は,第2契約に基づく新たな借入金に充当されることとなります。

問題は,「基本契約」が1つか否かです。

借入先が信販会社か消費者金融かによっても異なりますが,①いったん完済しても,カード等はそのままで,新たな契約をすることなく次の借入ができる場合と,②いったん完済した後,間があいて再度借入をするときには,改めて契約書の取り交わしをしている場合があります。

①の場合は,まずは「基本契約」は1つとして主張することとなります。(ただし,同一の契約書に基づく継続的取引であっても一連計算が否定されるケースもあります。)

②の場合は,「以前の基本契約の変更契約」と評価できるケースと,「新たな基本契約」と評価せざるを得ないケースとがあります。

契約書の名称や内容,取引履歴での記載,契約番号の枝番の付け方などを基に判断した結果,「以前の基本契約の変更契約」と評価できる場合には,基本契約は1つとして取り扱われますが,「新たな基本契約」と評価される場合には,「基本契約」が複数あるとして取り扱わざるをえません。

 エ 基本契約が複数のとき

基本契約が複数ある場合,原則として,第1の基本契約に基づく取引の過払金は,第2の基本契約に基づく借入金に充当されません。もっとも,「第1の基本契約に基づく過払い金を第2の基本契約による借入金に充当するとの合意があるなどの特段の事情」がある場合には「一連計算」が採用される余地もあります。

最判平成20年1月18日によると,上記①第1の基本契約に基づく取引の期間の長さ,②第1の基本契約に基づく最終の返済(完済)から第1の基本契約に基づく借入までの期間の長さ,③契約書の返還の有無,④カードの失効手続の有無,⑤空白期間の貸金業者と借り主の接触,⑥第2の基本契約をする経緯,⑦第1の基本契約と第2の基本契約の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引が事実上1個の連続した取引と評価できるかにより判断するとしています。

2013年08月15日

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