おおすみ法律事務所 鹿屋市の弁護士事務所

法律情報

遺産の評価について

1 はじめに

遺産分割は,被相続人(亡くなった人)の遺産を,相続人間で公平に分配するための制度なので,その前提として,遺産の価値を正しく評価する必要があります。

相続開始時点(=被相続人の死亡時)から,遺産分割までの間までに相当期間が経過している場合も少なくありません。その間に遺産の評価額が上下する可能性も十分考えられ,結果として不公平な遺産分割となるおそれがあります。

そのため,遺産評価は,①相続人の具体的相続分(現実に受けるべき相続分)を算定する場面と,②具体的相続分に応じて遺産分割をする場面で,異なる基準時が採用されています(これを「二段階評価方法」といいます。)。

※(補足説明1)具体的相続分は,遺産分割における分配の前提となるべき計算上の価格又はその価格の遺産総額に対する割合を意味します(最一小判平成12年2月24日)。
※(補足説明2)各相続人の具体的相続分=みなし相続財産×相続分+寄与分-特別受益
※(補足説明3)みなし相続財産=相続開始時の遺産の評価額-寄与分+特別受益

 

2 具体例に基づく検討

【例題1】

3年前に亡くなった父の土地を,長男である私と次男である弟が相続することになりました。その土地は,3年前と比べると時価がかなり下がっています。弟は,父の生前,父から2000万円の贈与を受けていました。私と弟の具体的相続分を決めるにあたり,土地の時価はいつの時点が基準になりますか。

相続人の具体的相続分(1の補足説明1)を算定する場面では,相続開始時の遺産の評価額を基準にするのが通常です。

したがって,相続開始時(被相続人が亡くなった時点)である,3年前の土地の価格が基準になります。

【例題2】

3年前に亡くなった父の土地を,長男である私と次男である弟が,相続分を2対1として遺産分割する(=具体的相続分率)ことになりました。その土地は,3年前と比べると時価がかなり下がっています。遺産分割をする上で,土地の価格は,いつの時点で評価したらよいですか。

遺産を分割する際には,遺産分割時を基準として遺産を評価するので,現在の土地の価格が基準になります。

ただし,相続開始時から遺産分割時までが短期間であって,土地の価格に変動がほとんどない場合は,相続開始時の評価で遺産分割することもあります。

※(補足説明)現実に取得する額=遺産分割時の遺産評価額×具体的相続分率(各相続人の具体的相続分額÷具体的相続分額の合計)

【例題3】

亡くなった父の土地の相続をめぐって,私と弟との間で,土地の価値の評価に食い違いがあります。土地の価値を客観的に評価したい場合は,どうしたらよいですか。

もっとも信頼度が高いのは,不動産鑑定士を鑑定人に選任し,鑑定を実施することです(家事審判法規則7条6項,民事訴訟法212条以下)。鑑定費用は,各相続人の法定相続分に従って,あらかじめ納付するのが通常です。

他にも,当事者間で以下の基準で定めると合意すれば,その価格で評価することもできます。

1 公示価格(自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価格)

2 固定資産評価額(公示価格の70パーセントを目途に設定された,固定資産税賦課に用いられる価格)

3 路線価(道路に面した四角い土地につけられた1㎡あたりの評価額。公示価格の80パーセントを目途に設定されている。)

4 不動産業者による査定額

【例題4】

亡くなった父の遺産として,株式,現金、預貯金,知人に対する貸付金があります。私と弟でこれらの遺産を分割するために,すべて換金したいのですが,どのような基準で算定したらよいですか。

1 株式

上場株式の場合は,取引相場において公表されている取引価格によって評価します。

非上場株式の場合は,相続税申告書記載の評価額を参考にして相続人間の話し合いにより算定します。

2 現金

額面そのもので評価します。

3 預貯金

遺産分割時の預金通帳や,金融機関の残高証明書(各銀行によって手数料の有無及び金額は異なります)により評価します。

4 債権

回収可能性が高いものは,額面通り評価します。回収可能性が低い債券は,相続人間の話し合いにより算定します。