法律情報
離婚事由(3)~「悪意の遺棄」
1 はじめに
民法第770条1項2号は、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」には離婚の訴えを提起することができると定めています。
ここにいう「悪意で遺棄」とはどのような行為を指すのでしょうか。
2 「悪意で遺棄」の意味
(1)「悪意」とは
ここに「悪意」とは、社会的・倫理的に非難されるような心理状態をいいます。
民法上「悪意」という語は、一般に、単に「事実を知っている」という意味で使用されますが、民法第770条1項2号にいう「悪意」については、上記のような意味に解するとされています。
(2)「遺棄」とは
ここに「遺棄」とは、正当な理由のない同居拒否一般ないしは同居・協力扶助義務(民法第752条)の不履行一般を含むものと解されています。
3 具体例
遺棄の具体例としては次のようなものが挙げられます。
① 被告が原告を自宅に置き去りにしたまま復帰しない場合
② 原告を自宅から追い出した
③ 原告に別個せざるをえないように仕向けた
④ 同居はさせていても配偶者としての扱いをしない場合
⑤ 被告が正当な理由もなく帰宅しない場合
4 悪意の遺棄が認められなかった事例
最高裁昭和39年9月17日判決は、次のように判示しました。
「原審の認定したところによれば、上告人は被上告人の意思に反して上告人の兄Aらを同居させ、その同居後においてAと親密の度を加えて、夫たる被上告人をないがしろにし、かつ右Aなどのため、ひそかに被上告人の財産より多額の支出をしたため、これらが根本的原因となつて被上告人は終に上告人に対し同居を拒み、扶助義務をも履行せざるに至つたというのであり、右認定は挙示の証拠によつて肯認しうる。
所倫は、およそ夫婦の一方が他方に対し同居を拒む正当の事由がある場合においてもこれによつて夫婦間に扶助の義務は消滅することなく、依然存続するものであり、従つてこれを怠るときは悪意の遺棄にあたるとの見解に立つて、被上告人の行為は上告人を悪為にて遺棄したものであると主張するのである。しかしながら、前記認定の下においては、上告人が被上告人との婚姻関係の破綻について主たる責を負うべきであり、被上告人よりの扶助を受けざるに至つたのも、上告人自らが招いたものと認むべき以上、上告人はもはや被上告人に対して扶助請求権を主張し得ざるに至つたものというべく、従つて、被上告人が上告人を扶助しないことは、悪意の遺棄に該当しないものと為すべきである。」
このように、同判例は、妻が婚姻関係の破綻について主たる責を負うときは、夫が妻を扶助しなかったとしても「悪意で遺棄」した場合には当たらないことを示したのです。