おおすみ法律事務所 鹿屋市の弁護士事務所

法律情報

相続人の廃除とは

1 相続人の廃除とは

「廃除」とは,被相続人の請求または遺言により,遺留分を有する推定相続人(兄弟姉妹以外の推定相続人)の相続権を剥奪する制度です。

 

2 制度の利用状況

相続人廃除の制度の利用状況は,以下のようになっています(平成21年度司法統計)。

【審判】 受理総数157件。既済総数164件,うち認容32件(既済総数の約20%)。
【調停】 受理総数131件。既済総数100件,うち成立18件(既済総数の18%)。

 

3 廃除が認められるための要件

廃除が認められるのは,遺留分を有する推定相続人が,被相続人に対して虐待・重大な侮辱を加えたとき,または推定相続人にその他の著しい非行があったときです。

「虐待」とは,被相続人に向けられた暴力や耐えがたい精神的な苦痛を与えることを意味します。「重大な侮辱」とは,被相続人に向けられた行為で,被相続人の名誉や感情を害するものを意味します。
推定相続人の言動が「虐待」「重大な侮辱」にあたるかどうかを判断する際には,同人が当該言動をとった理由や責任の所在,一時的なものかどうかといった事情も考慮されます。

「その他著しい非行」とは,被相続人に対し精神的に苦痛や損害を与える行為のうち,虐待・侮辱に匹敵する程度のものを意味します。虐待侮辱とは異なり,著しい非行には,直接被相続人に向けられたもの以外も含まれます。

 

4 どの程度の言動があれば廃除が可能か

実親子の場合,推定相続人の言動が廃除事由に該当するためには,同人の言動が家族間の共同生活を破壊する程度であることが必要となります(神戸家伊丹支審平成20年10月17日など審判例の多数)。

夫婦,養親子の場合,推定相続人の言動が廃除事由に該当するためには,同人の言動が,離婚・離縁原因である「婚姻・縁組を継続しがたい重大な事由」と同程度であることが必要となります(名古屋高金沢支決昭和60年7月22日など審判例の多数)。

 

5 廃除事由の具体例

【実親子の場合】
多額の借金を肩代わりさせた場合(肩代わりした金額,借金をした経緯,取り立てによる精神的苦痛,被相続人の生活状況などが問題となります。)trouble

被相続人に対し暴言を吐いた場合(認容例として「千葉に行って早く死ね,80まで生きれば十分だ」 等の暴言を繰り返した例があります。ただし,暴言が一時的なものであるとして却下された例も多数あります。)

犯罪・受刑・服役の場合(罪の性質,前科前歴,罪を犯した時点での年齢,被害弁償等のため被相続人が支出した費用負担,謝罪等による精神的負担などが考慮されます。)

親の意に沿わない結婚をした場合(ただし,却下された例もあります。認容された事例には,親の反対を無視して暴力団員と結婚したというものがあります。)

親の介護をしなかった場合(廃除が認容された審判例では,介護を必要とする事情,被相続人・相続人の従来の生活関係,相続人の財産状況などが考慮されています。)

正当な手続きによらずに,被相続人が経営する会社を推定相続人が乗取った場合

【夫婦の場合】
長期にわたる浮気,駆け落ち

妊娠中絶の強制

暴力(頻度,程度が問題となります。)

暴言(「気狂い」「年上の女に用がない」など。これも継続的なものである必要があります。)

被相続人名義の預金の無断払い戻し,着服

【養親子の場合】
養親の不動産を無断で売却し,移転登記した場合

養親から居宅・賃貸用家屋の贈与など生計上さまざまな配慮をうけておきながら重篤な病状の養親の扶養をしない場合

縁組が形骸化していて,養親子関係の実体がない場合

 

6 かつて廃除理由があった場合の取り扱い

【事例】 被相続人が推定相続人の虐待を理由として,遺言書に「推定相続人を廃除する」旨を記載したが,遺言書作成後に推定相続人が改心したため,被相続人は死の直前,推定相続人を許していたという場合,裁判所は,このことを斟酌して,廃除の申立を却下することができるでしょうか。

【最高裁の判例】 最高裁は,「家庭裁判所は,推定相続人の行為が形式上廃除要件に該当する場合であっても,被相続人が許していたかどうか,相続人が改心しているかどうかなど,諸般の事情を総合的に考察して,廃除することが相当であるかどうか判断することができる。」という趣旨の判断をしています。 (最決昭59.3.22家月36巻10号322頁)

【実務の取り扱い】 もっとも,実務上は,廃除の効果が重大であることから,法定の廃除事由の存否の判断に限り裁量を認める取り扱いが有力であるとされています。

 

7 推定相続人廃除の効果

廃除の効果は,被廃除者の遺留分権を含む相続権を剥奪することです。もっとも,剥奪されるのは当該被廃除者のみですから,同人に相続人がいれば,その相続人が代襲相続人となります。

被相続人が廃除を請求して認容された場合はその効力は審判が確定したときから生じますが,遺言執行者が家庭裁判所に対し廃除請求した場合は,その効力は被相続人の死亡のときにさかのぼって効力が生じるとされています。

廃除を認容する審判の結果は,戸籍にも記載されます。

 

8 遺産の管理はどうすればよいか

廃除の請求後,審判確定前に相続が開始する場合,被廃除者も推定相続人として行動することができます。そのため,審判が確定するまでは,遺産を財産管理人に管理させたり,推定相続人の処分を禁じたりする必要が生じます。

そこで,推定相続人の廃除の審判確定前に相続が開始する場合,家庭裁判所は,他の相続人など利害関係人等の請求によって,遺産の管理について必要な処分を命じることができるとしています。(大半が遺産管理人の選任です。遺産管理人は,遺産を保全するため,仮処分などを行います。)

 

9 廃除を取り消すことは可能か

被相続人はいつでも推定相続人の廃除の取消を家庭裁判所に請求することができます。

廃除の取消は,被相続人の請求または遺言によってのみ,取り消すことができます。